30歳世代は、なぜ実店舗に足を運ぶのか?「体験」と「つながり」の背景を探る

Summary

30歳世代が、服をどこで探して購入しているのか?前回はこのようなテーマをもとに、アンケートを実施。その結果から見えたのは、実店舗とオンラインを利用した「ハイブリッド型」な購買行動でした。

タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する時代、特に私たち30歳世代にとって、デジタルは身近な存在。
ですから、オンラインでの購買行動が大半を占めているかと思いきや、「実店舗で実物を確認し、買い物をしている人も多い」という意外な実情も浮かび上がりました。
忙しい生活のなかで、わざわざ実店舗に足を運ぶ理由とは何なのか?今回もアンケート結果や自身の体験から、その背景にある理由を探ります。

実店舗で体験したいことがある。アンケートから見えたその魅力とは?

30歳世代を対象としたアンケートでは、「実店舗で体験したいことは何ですか?」という質問に対して、以下のような回答が寄せられました。

「試着をしたい」「素材感やイメージを確認したい」という声が最も多く寄せられていること。これは、30歳世代だけでなく多くの世代に共通する実店舗の基本的な魅力でしょう。

しかし意外だったのは、「店員との会話や提案を楽しむ」「ディスプレイや店内の雰囲気を楽しむ」といった回答も多く見られた点。デジタル慣れした我々がECサイトを使うことの魅力として、「対面ではないところがいい」、「実店舗に行くのが手間」と回答している人もいました。

しかし、リアルな体験に価値を感じている人も、確かに存在しているのです。

どんなときに実店舗を訪れるのか?

では30歳世代は、どのようなときに実店舗へ足を運んでいるのでしょうか?
アンケート結果をさらに深掘りするために、複数人へのインタビューを実施。その中で、以下のような声が寄せられました。

1.友人と一緒に立ち寄る

「友達と遊んでいるときに、『ここ見ていい?』みたいな感じで、ふらっと古着屋なんかに入ることは結構多いかも。そこで店員さんや友人に試着したところを見てもらって購入することも多い気がする」(30歳/女性/編集)

2.イベントを楽しむ

「アパレル絡みのイベントに行くことがある。好きなアーティストや気になるポップアップイベントは、自分で足を運んで体験したいと思う。アイテムの購入が主な目的ではあるけど、特別な体験ができている感じが好き」(30歳/女性/デザイナー)

3.「服を見る」こと自体が目的

私自身も、友人などと出かけているときにセレクトショップなどに立ち寄ることがあります。たとえば、「アウターが欲しいから渋谷に行って色々見たい」という目的を持ちながら、友人と一緒に遊ぶついでに実店舗を巡ることが多いです。

また、服を購入する際、「オンラインと実店舗のどちらをよく利用するか?」という質問をしたところ、以下の結果が得られました。

「主に実店舗」を選んだ人は36.4%。
「状況に応じて使い分けている」と答えた人を合わせると、70%近くにのぼる結果となりました。

この結果から、実店舗は「購入するための場」としての役割を果たしているだけでなく、「誰かと共有できること」であり、「特別な体験」ができる場所としても機能していることが分かります。

また、「最近購入したアイテムはどこで見つけましたか?」という質問では、アパレルブランドの実店舗が54.5%と最多で、「InstagramやPinterestからのリンク」(31.8%)がそれに続きます。

この結果を合わせると、先程のアンケートで「状況に応じて使い分けている」と回答した人たちが、オンラインと実店舗それぞれのメリットを補完するように使い分けているのかもしれないと感じました。

「特別」と「つながり」を大切にしたい、30歳世代にとっての実店舗の魅力

特別感があるポップアップイベントや限定ストア

実店舗には、商品を買うだけではなく、「特別な体験」が得られる魅力があります。

例えば、アウトドアブランド「アークテリクス」は、「アークテリクスの哲学をより深く理解してほしい」という思いから、2023年に「ARC’HIVES (アーカイブス)」という展示イベントを実施。

また、2024年11月に新宿でオープンしたストアは、シーズンごとにブランドがピックアップしたアイテムを1階フロアに集約させ、トレンドを体感できるレイアウトに。また、国内初となる「コンシェルジュサービス」を導入し、スタッフと訪れた客がより密接なコミュニケーションを取れる、体験重視の店舗づくりをしています。

こうしたイベントは、単に「物を買う」だけではなく、「ここでしか得られない経験」を提供しており、これが30歳世代をはじめとした幅広い層を引きつける理由のひとつとなっているのでしょう。

オフラインでの「つながり」や「共有体験」を求めて

「誰かと一緒に買い物を楽しむ」という点も、実店舗の重要な役割。友人とのショッピングや、デートの一環としても利用されることが多いようです。

「何が似合っているかわからないから、一緒に見てほしいと思う。かわいいなと思うアイテムはすぐに共有したいから、LINEなどでリンクを送ったりもする」(30歳/女性/マーケター)

こうした行動は、買い物が単なる「購入」だけでなく、「コミュニケーション」の一部として機能していることを示します。
オンラインショッピングでは得られない「その場のリアクション」や「共有感覚」が、実店舗ならではの価値を生み出しているのです。

また、アンケートでは以下のような「印象に残った実店舗やイベント」が挙げられました。

 木更津コンセプトストア 地域の特性を活かした店舗設計やラインナップが魅力。訪れるたびに新しい発見がある
 糸を選べるニットのオーダー会 自分だけのアイテムを作れるカスタム体験が楽しめる
 ゲーム内に登場するお店を忠実に再現したポップアップストア 特定の世界観に浸れる特別な空間での買い物体験ができる

これらに共通しているのは、購入に「体験」が紐づいていること。友人やパートナーとの時間を楽しむだけでなく、特別なイベントや体験を求めて足を運んでいるようです。

その中で感じる「共有」や「つながり」も、30歳世代が実店舗を訪れる理由の一つであることが、この結果から推測できます。

「タイパ」と「コスパ」を両立させる、実店舗の価値

タイパ重視の世代が実店舗に足を運ぶ理由

タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する30歳世代にとって、実店舗は効率性の面で劣るようにも見えます。それでも多くの人が足を運ぶ理由は、「納得感」と「特別感」に加え、「実際に手に取ることで得られる確信」にあるのかもしれません。

前項で紹介したアンケートで「実物を見て確認したい」という声が最も多く挙げられたように、オンラインでは補えない「リアルな体験」が、実店舗の大きな魅力です。

コスパと失敗回避

「オンラインで印象に残った購入経験はありますか?」という質問項目には、以下のような回答が寄せられました。

「アイテム問わずいざ届いたら、イメージやサイズ感が違うことが多々ある」

「結婚式用ドレスを購入。欲しいデザインがSサイズのみで、普段はMかLだが無理して選んだ。見た目は満足だが、サイズがギリギリで焦った」

「想像より重かったなど、着用感が不満足だった」

「ECサイトの写真で見たときと、素材の印象が全然違った」

これは実は、オンラインで「良い経験をしているか教えてほしい」という項目だったのですが、回答には「失敗経験」が多数寄せられるという結果に。いくつかの回答に共通しているのは、イメージ違いというもの。

せっかく購入をしたのに着用できないとなると、「無駄な出費」となってしまいます。

購入できるチャネルを多く知っている30歳世代は、少しでもお得で、早く届くなど、メリットの多い買い物をしたいと考えています。ECが発展した現在ですが、やはり障壁がある様子。総合的なコスパの良さを考えたとき、実店舗に訪れるという判断に至るのかもしれません。

実店舗の「体験」と「つながり」がもたらす価値

デジタル技術が身近な30歳世代にとって、オンラインショッピングは日常の一部。それでも実店舗を訪れる理由は、商品を購入するだけに留まらない「体験」と「つながり」にあるようです。

また、誰かと一緒にショッピングを楽しむという「共有体験」が、買い物を単なる消費ではなく「コミュニケーション」の一部として位置づけています。

タイパやコスパを重視する一方で、リアルな場での体験に価値を見出していること。その背景には、「納得して選びたい」「特別な瞬間を楽しみたい」という思いがあります。これはオンラインでは得られない感覚であり、実店舗が果たす役割の重要性を、改めて実感させます。

オンラインとオフラインの使い分けが進むなか、30歳世代にとって実店舗は「物を買う場」を超えた存在であり、「体験を共有し、記憶に残る時間を過ごす場」としての役割を持っています。
購入までのプロセスや店内の空気感、特別感を味わうために、これからも私たち30歳世代は、実店舗を利用し続けるでしょう。

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