Summary
さて、ここからは、(Web)コンテンツ領域における将来の探求余地について述べていきたい。
AI技術の発展により、テキストや画像生成だけでなく、「コンテンツ」生成全般においてもAI活用の可能性が広がっている。
我々は、この進化するAI技術を活用し、新しいコンテンツ生成と評価の方法を探究している。
近年、テキスト、画像、動画を含むメディアデータの生成に注目が集まっている一方で、その評価方法はまだ十分に検討されていない。
現在のAI研究における生成評価は基本的に「本物らしさ」に焦点を当てている。しかし、体験や心理的変容を重視するコンテンツの評価は、「本物らしさ」では不十分である。
ユーザーに高品質な体験を提供するためには、クリエイティブコンテンツの「本物らしさ」以外の評価方法も確立しなくてはならない。
この課題に対して、我々は工学的アプローチとデザイン的アプローチという2つの方法を採用し、研究を進めている。
我々の究極の目標は、AIを用いて「良いクリエイティブ」を作り出すことにある。
工学的アプローチでは、AIによる「良いクリエイティブ」の完全な評価と生成を目指す。
「魅力工学」という分野が近い思想を持っている。
魅力工学では、人の心に響くものを科学的に解明しようとする試みが行われている。例えば、女性の顔の魅力度を予測するAIの開発などがこのアプローチに含まれる。
また、「クリエイティブの良さ」の評価が可能となれば、結果として、「良いクリエイティブ」の生成も可能となる。
このアプローチは、人間の介入を最小限に抑えることを理想とし、主に「評価方法」の技術開発に重点を置いている。
一方で、デザイン的アプローチは、AIと人間の協力を通じて「良いクリエイティブ」を生み出すことを目指す。
HCI for MLとして知られるこの分野は、AIの開発と合わせて、人間がAIとどのようなインタラクション(Human Computer Interaction)を取るべきかを追求する。
例えば、画像生成において、スケッチによるレイアウトを制作者が指定し、その他の要素をAIが担うという協業が提案されている。
この取り組みの中で、そもそも作り手による評価の介入がどのように生成結果の「良さ」につながるかを明らかにする必要があるが、現状は近い分野が存在せず、あまり議論されていない領域である。
このアプローチでは、人間との協業を前提とした「生成方法」の技術開発に重点を置いている。
これら2つのアプローチは、AI技術の進化と共にその境界が変わっていくと考えられるが、
2つのアプローチを両輪で研究することによってAIと「良いクリエイティブ」の関係性に迫ることが可能であると我々は考えている。
アプローチ |
領域 |
説明 |
課題 |
参考分野 |
例 |
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工学的 |
評価 |
「良いクリエイティブ」を機械評価する。心理変容の最大化を目指し、本物らしさではなく魅力度などの指標で評価する。 |
マルチメディアとしての「コンテンツ」の評価方法が未確立。 |
- 魅力工学
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女性の顔の魅力度を予測するAIなど |
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工学的 |
生成 |
文字列や画像、音声などを含むマルチメディアとしての「コンテンツ」全体を生成。 |
各種メディアの生成方法は存在するが、組み合わせた生成と評価方法は未確立。 |
- コンピュータビジョン、自然言語処理、など |
- 文章生成AI - 画像生成AI |
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デザイン的 |
評価 |
「良いクリエイティブ」の本質的な評価を行う。 |
「コンテンツ」による本質的な効果が十分計測されておらず、高度な感情に対応していない。 特に、作り手の評価と受け手の評価の関係性が明らかになっていない。 |
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デザイン的 |
生成 |
「良いクリエイティブ」の本質的な評価が行われる生成インタラクションの開発。 |
AIと人間がどのように協業すべきか、人の介入を前提とした評価や生成方法が確立されていない。 |
-HCI for ML |
-画像生成において、スケッチによるレイアウトを制作者が指定する協業など |
根本的に、工学的アプローチでは機械の創造性を信じる一方で、デザイン的アプローチでは人間の創造性を信じるスタンスを取ると言う違いがある。
「AIに創造性があるかどうか」は、多くの専門家が様々な角度から議論している論点であるが、まだ結論が出ていない。
そもそも、「良いクリエイティブ」とは何かという基本的な問いに対する答えもまだ定まっていないのが実情だ。
2つのアプローチは、それぞれ異なる視点を持ちつつも、最終的にはAI技術を使って「良いクリエイティブ」を生み出す共通の目標に向かっている。
工学的アプローチは、AIの能力を最大限に活用し、デザイン的アプローチは、AIと人間の協力による創造性の最大化を目指す。
これらの探求を通じて、AIと人間の協働の新たな形を模索し、クリエイティブな分野における未来の可能性を切り開いていきたいと考えている。