パーパス時代に「編集者ができること」

西尾 清香

Summary

プランニングエディターの西尾です。

長年、編集者として働きながらも、「編集者って、何ができる人なんですか?」と聞かれると、未だに即答ができません。その定義はさまざまで、時代に合わせても変化しているように感じますし、わかりやすく成果に直結する職業ではない(と思っている)ので、どうももごもごしてしますのです。

そこで今日は改めて、「編集者ができること」について考えてみたいと思います。

個人的な見解が多分に含まれますが、ご了承ください。

メディアにおける「編集」とは

Pomaloへ入社する以前、私は主に雑誌の編集をしていました。毎月無数にある洋服の中から、掲載するものを選び、撮影して紙面を作ってきたわけですが、そのときの思考回路を思い出してみたいと思います。

例えば、扉(企画の最初のページ)でモデルが着る服を選ぶ場合......、

・そもそもこの雑誌は、既存の価値観に縛られないスタンスを持った女の子たちに向けた雑誌

・その中で、今回は彼女たちから支持を得ている「肌見せファッション」の企画をやる

・彼女たちが支持しているのはただの露出ではなく「媚びない肌見せ」

・彼女たちの「媚びない」アティチュードを、最も体現し得るビジュアルを撮り下ろすために適した一枚はコレ!

結果的に、扉に掲載された洋服が完売した! ということはあっても、紙面作りのプロセスの中で「この商品を売ろう」という発想はなく、終始媒体が持っている「価値観」や「意志」を軸に動いていたように思います。

企業オウンドメディアの「編集」とは

では、「編集」の舞台が企業のオウンドメディアに変わるとどうなるでしょうか。

記事の構成を考え、撮影をして、文章を添えかたちにする、この一連の作業工程は同じですので、今まで通り編集力を発揮できるはず、と私は安易に考えていました。

しかし......、同じやり方でやってみても、数字はイマイチ、もう少し工夫が欲しい、もっと結果につなげて欲しいと言われてしまう......。言わずもがな、扉に掲載した洋服が完売したのは、かつての紙媒体に力があっただけで、決して私の編集力によるものではなかったのです。

もちろん、洋服が素敵に見える撮影の方法や、魅力をさらに引き出すような記事の構成、長所を最大限伝えるための文章といった、売るためのお手伝いは出来ます。ただ、広告クリエイターのように、完売させるほどのパンチ力や戦略術は(現時点で私は)持っていませんし、実際に購入を決断させ目の前のお客さんをハッピーにするという点では店舗の販売員さんには到底叶わない。

そう、編集者(少なくとも私)=「ものを売る」のが大得意な人ではないというのが、個人的な結論です。

そして、今更ながら気付いたこともありました。

それは、雑誌と企業のオウンドメディアでは扱っている商材がまったく異なるということです。雑誌の商材は「価値観」、アパレルブランドの商材は「洋服」。この世の中は「もの」を売っている会社が圧倒的大多数で、「価値観」を売っている雑誌(出版社)はある意味特殊な存在だったのだと認識したのでした。

「もの」ではなく「パーパス」の時代に

さて、ここで企業を取り巻く変化に目を向けてみたいと思います。

先程、この世の中は「もの」を売っている会社が大多数と書きました。その事実は今も変わってはいないものの、意識に変化が起きています。

ただ「もの」を作って売るだけでは生き残れない、そう考える企業が増えているのです。「もの」を作るなら、なぜ作るのかの意義と説明が必要ですし、消費者側も同じようなTシャツを買うなら、環境負荷への配慮など共感できるストーリーを持ったブランドで購入したいと考える傾向が強まっています。

つまり、機能や価格以上に「価値観」への共感が決め手になっている、そう考えれば、かつて編集者が雑誌をつくりながらやってきたことが、ここで役に立つのではと思うのです。

また、価値観の上位に据えられた「パーパス」という概念もここ最近注目を集めているようです。こちらは「存在意義」と言い換えられることが多く、社会にとってそのものやその企業がなぜ存在する必要があるのかを定義し、その定義に対する共感こそが価値につながるという考え方。「価値観」を突き詰めた先の「存在意義」まで問われるような時代に突入しているのだと言えそうです。

このような時代の中で、オウンドメディアの「編集」をしていくには、クライアント企業の「パーパス」をどこまで深く理解してアウトプットできるかという新たな課題が生まれるわけですし、難易度が上がっていることは間違いないでしょう。

そして、雑誌が得意としていた憧れやファンタジーではなく、骨太でリアルなコンテンツが求められていることを考えると、その点も一筋縄ではいかなそうです。

それでも「編集者ができること」を試せるチャンスがやってきたと捉え、今度こそ「編集者」の存在意義を示すことができるように悪戦苦闘、試行錯誤したい、そう思うのです。

(と、随分大風呂敷広げた原稿に仕上がりましたが、日々の業務に追われながらも案外本気でこんなことを考えていたりするのが「編集者」なのかもしれません......!?)

Photo/Getty Images

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