キャッチボールの本質ってなんだろう?

引地 海

Summary

このコラムでは、Pomaloのクリエイティブディレクターである引地海が、自身の経験をもとに解釈したコミュニケーションの本質や考え方、関係づくりのアイデア、そしてそれらの着火点になる「情熱」について論じていきます。実体験による独断と偏見、さらに歪んだ自意識をベースに好き勝手に書きますので、変わり者の偏った意見だと思って、ご笑覧いただければ幸いです。

相手が取りやすいところにボールを投げているか?

前回もお伝えしましたが、コミュニケーションはキャッチボール。投げる、受けるの繰り返しです。ここ数年でインターネットやデジタルコミュニケーションツールが普及し、誰でも情報を簡単に発信=投げることができる世の中になりました。これまで「受ける側」だった人も、「投げる側」になる。

個人的にはコミュニケーションの量が増えることで、質も向上すると思っているので、良いことだと思いますが、一方で、投げる側にも投げる側なりのお作法があることを忘れてはいけません。その中で重要なのが、「受ける側」への配慮だと感じています。

要するに、ボールを投げる側として相手が受け取りやすいところにボールを投げているか?ということ。そもそも相手はこっちを向いているのか?もしくはボールを受け取る準備はできているのか?例え受け取ってくれたとしても、相手が投げ返せる大きさ(もしくは重さ)のボールなのか?などなど。単にキャッチボールと言っても、実は奥が深い。

そして何より、キャッチボールで大切なのは、どれだけ早い球を投げられるかや、どれだけかっこよく投げられるかではなく、どれだけ長くキャッチボールを続けられるか、にある気がします。それこそがこれからのデジタルコミュニケーションが目指すべきところだと思っています。

 フィードバックを電話で伝える、は時代遅れ?

少し話がずれてしまうかもしれませんが、先日、とあるデザイナーと話していて、彼がこんなことを言ってました。

「先日提案したデザイン案に関して、突然クライアントが電話でフィードバックしてきて、出先だったので困ったんだよね」

ふむ、確かに。いろんな事情や状況もあると思いますが、個人的にはデザイナーに賛同しました。クライアントが「電話で話した方がニュアンスも伝わる」と思っていたであろうことは理解できますが、果たしてその時、デザイナーはキャッチボールをする準備はできていたのでしょうか?答えは否ですよね。

数十年前のまでの「9時〜5時はみんな仕事している」という暗黙の了解が蔓延っていた時代とは異なり、現代において働く時間や環境は人それぞれ、多種多様になりました。リアルタイムで話しながら議論を深めたいのであれば、相手にもその準備が整った状態になってもらわないといけない。なので、今回のケースは事前に「電話で話す時間を設定する」のがマナーな気がします。

そのデザイナーが言ってました。「電話って伝える方は楽なんだけど、受ける方は楽じゃないんだよね」と。そうだよなーと思った瞬間でした。

 ニュアンスのテキスト化に挑む

最近は仕事でもプライベートでも、電話よりもメール、メールよりもチャットツールというのが主流になってきました。余程のことがないと、直接電話をかけることはしない気がします。僕が広告代理店の新入社員だった20年前は、一日中、電話番をするのが仕事でしたが、今となっては信じられませんね。

しかし、仕事をしていく上で、もしくは誰かとコミュニケーションをしていく上で、ニュアンスがなくなったのかというと、そんなことはありません。

チャットツールで一言二言返信する、リアクションボタンを押す、スタンプを送る、チケットを送る、などなど。新しいコミュニケーションツールの中でも、新しいお作法も増えているわけで、ニュアンスの伝え方もアップデートしていく必要があります。

その中で、ニュアンスもテキスト化する技術が求められている気がします。昔はメールなんて打ってないで電話しろとおっしゃっていた諸先輩(実際はメールを打てない)がたがたくさんいましたが、でも今はみなさんSNSを駆使して、情報発信されている訳ですし。

とにかく、新しいツールや新しい価値観に順応し、「ニュアンス」を伝える術を身につけていかなければならない。ニュアンスも言語化、文章化することが、現代におけるコミュニケーションのお作法の初級編なんだな、と思っています。

Contact