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Interview

チームのコンテンツ企画力が劇的に向上。「編集のがっこう」をきっかけに「自走する企画集団」になったTSI

株式会社TSI
チームのコンテンツ企画力が劇的に向上。「編集のがっこう」をきっかけに「自走する企画集団」になったTSI

Client:株式会社TSI

ファッション・エンターテインメント創造企業を掲げるTSIホールディングスグループの中核企業の一社として、衣料品の企画・生産・輸入、及び専門店・百貨店への卸売、直営店での小売販売等を展開しています。

Overview

Pomaloでは提供サービスの一環として「企業の内部支援」を手掛けており、その中でも、従業員によるコンテンツマーケティング力の向上を目指す教育プログラムとして、実績豊富なプロの編集者が講師を務める「編集のがっこう」を提供しています。

大手アパレル企業からフリーランスライターまで、多様なコンテンツ企画者に提供してきた本プログラム。今回は、NANO universeやNATURAL BEAUTY BASICなど様々な有名ブランドを要する株式会社TSIにて、WEBコンテンツ等の企画・制作等を担うデジタルプラットフォーム部の方々に向けた取り組みをご紹介します。

TSI社での「編集のがっこう」の開催風景(全10回、10名で実施)

TSIではこれまで、ブランドディレクターが起点となってWEBコンテンツを企画し、デジタルプラットフォーム部がそれらの企画に沿って制作を進めるという流れでコンテンツ制作がなされていました。一方、近年ではECサイトやSNSなど自社で抱えるメディアが増えてきたことから、デジタルプラットフォーム部が主体となって企画を立てる必要性が高まり、そのためにも、チームメンバーの企画力向上が必須となりました。このことを背景に同社は、”メディアの編集視点”をふんだんに取り入れた「編集のがっこう」の導入・開催を決めました。

具体的には、「顧客を知る」「発想力を鍛える」「企画する」「ストーリー構成力」「魅力を引き出すタイトル」という5つのテーマをもとに、学びと発表形式での実践を行うことで、実務に使えるスキルを磨いていきました。

本記事では、TSIのデジタルプラットフォーム部長として「編集のがっこう」の実施を決めた岸 武洋氏と、「編集のがっこう」の講師を務めたPomaloの澄川 恭子氏による対談の様子をお届けします。

 Point

  • ECサイトやSNSなど、自社で抱えるメディアで展開するWEBコンテンツの、従業員による企画力の育成・向上が課題としてあった
  • 「編集のがっこう」を通じて部門内に「企画を立てる文化」が芽生え、ブランドサイドにも積極的に企画を提案できるようになった
  • 受講者全員が「100%満足」と答える、高い満足度での開催終了となった

Project Members

  • 岸 武洋[Takehiro Kishi](株式会社TSI プラットフォーム本部 デジタルプラットフォーム部長)
  • 澄川 恭子[Kyoko Sumikawa](Pomalo株式会社 Co-Founder、コンテンツフェロー)

Story

しっかりと目的ドリブンのコンテンツを企画できるようになりたい

社内外の様々な要因によって、従来から続けてきたコンテンツの作り方を変えなければならない。そのような課題感のなかで知ったのが「編集のがっこう」でした。

--まずは、「編集の学校」以前で貴社がコンテンツマーケティングにおいて抱えていた課題について教えてください。

岸:少し背景からお話しさせていただくと、そもそもTSIという会社はいろんな事業会社が統廃合してできたところで、チームがかなり細分化されています。私たちデジタルプラットフォーム部は、その中でも会社を横断してECサイトやコンテンツマーケティング、OMO施策等を手がけるチームとしているわけですが、基本的にはブランドがずっとコンテンツを作ってきたという背景もあって、私たちはブランド側から降りてきた企画に沿ってコンテンツを作るという”受託制作”みたいな役割を担っていました。

--どんなコンテンツの制作を依頼されることが多かったのですか?

岸:基本的には、新製品が出るのに合わせた”ルックブック”的なコンテンツが多いです。ブランドからしたら、新製品のラインにフォーカスしてビジュアル的にお客様へと訴求したいのは当然ですよね。でも、そればかりになってしまうと、どうしてもコンテンツが画一的になり、どれも変わり映えがしないものになってきてしまいます。現に、オウンドメディアの売上は徐々に下がっていき、売上の比重がペイド(広告)経由に寄り始めていました。さらにコロナ禍による業界全体の売上低下も相まって、いよいよ、コンテンツの作り方を変えていかないといけないというフェーズになっていました。

澄川:なぜ自分たちのブランドを買ってもらわないといけないのか。ここを改めて明確にして発信しないといけない状況だったのですよね?

岸:そうです。ただ言われたものを作るのではなく、しっかりと目的ドリブンのコンテンツを企画できるようになりたい。そのような思いから、それまでは「コンテンツ制作課」という組織名だったのを「コンテンツマーケティング課」に変更しました。また定期的に情報交換をさせていただいていたPomaloさんにも相談し、「編集のがっこう」というサービスがあることを知って、試しにやってみるかということで、2023年下半期に実施したという流れです。

読者の心が動くことにこそ、記事の本質的な価値がある

目的ドリブンのコンテンツを作るためには、そもそもの顧客(読者)理解から丁寧に進める必要がある。そのような目的意識から、「編集視点 × マーケ視点」という両軸の視点をもって、全10回のカリキュラムが設計されました。

--ここまでお話いただいたTSIさんの状況を踏まえて、講師を務める澄川さんとしては、どのような目的意識で「編集の学校」のカリキュラムを考えていかれましたか?

澄川:いま岸さんがおっしゃったように、ブランド担当者から言われて作るところから、まずは「視点」を変える必要があると感じました。記事って、見様見真似でも作ることができます。でも、それだと誰にも届かないコンテンツを作りかねません。本質的にユーザーに届き、読後に”心の変容”をもたらすものを作らないとダメだよ、ということをデジタルプラットフォーム部の皆さまに知ってほしいと思いました。

誰の気持ちを、どう動かしたいのか。記事を読む前と後で、読者にどうなってもらいたいのか。値段だけでなく、コンテンツに書かれている内容を読むことで読者の心が動くことにこそ、記事の本質的な価値があると思っているので、ここをまず肝に置いてカリキュラム設計をしていきました。

全10回のカリキュラムのうち、奇数回は講義として体系化したものをインプットする時間に、偶数回は各前回で学んだことを踏まえて、上画像にあるようなワークを通じての発表等アウトプットする時間として設計された

澄川:具体的には、まずコンテンツのターゲットが決まらないと、読者の悩みや欲求を変えていくコンテンツも見えてきません。ですから、最初のテーマとして「顧客を知る」を設定し、皆さんがコンテンツを提供する読者の解像度を上げていただきました。それができたら、今度は「発想力」ということで、例えば街中の写真からトレンドを見抜く力や、視点を外して違和感や疑問点を捉える力の養い方についてお伝えしました。

ここまでできたら、今度は自分たちが関わるブランドが読者の悩み/欲求にどう応えることができるのかという、いわゆるバリュープロポジションを考えながら、企画を立てる練習をしていきました。その後は、コンテンツのストーリー構成やタイトルの考え方などを身につけるトレーニングを行い、「編集視点 × マーケ視点」という両軸での学びをしていただけるよう心がけてカリキュラム化していきました。

TSI社向け「編集のがっこう」第8回ストーリー構成力実践編テキストより

授業の延長みたいな感じで、日々の業務でアウトプットする人が増えた

「編集のがっこう」では、コンテンツ企画におけるTipsだけではなく、根本の「思想」の部分からお伝えしています。だからこそ、全てのカリキュラムが終了した後も受講者によるアウトプットの習慣は継続し、コンテンツ企画/制作が自走できる組織作りに寄与します。

「編集のがっこう」参加者とTSIオフィスにて再会

--実際に実施されている「編集の学校」をご覧になって、岸さんとしてはどのように感じましたか?

岸:例えば第1回テーマの「ターゲットは誰?」という問いに、明確に答えられるメンバーはいなかったと思います。当然ながら、コンテンツの目的も答えられない人ばかりだったのですが、みんなの意見を出し合って議論することで、どんどんと解像度が上がっていくのが分かりました。こういう学習系のカリキュラムって、一足飛びで成果に繋げようとして詰め込むタイプのものが多い印象なのですが、そうではなく、講義とワークショップを交互にやる形で丁寧に進めていただいたので、みんなの中でのストーリーがしっかりと繋がったんだと感じています。

ちなみに、コンテンツ制作チーム以外に撮影チームのメンバーも参加したのですが、「コンテンツのコンセプトが明確になったことで撮影の幅も広がった」と申していますし、現に最近ではブランドディレクターが立ち会っての議論ができていますね。

全ての実施回において受講者満足度100%(満足・やや満足・とても満足)を達成している

--今回、全ての回において受講者から高い満足度を得たかと思いますが、その理由/要因として澄川さんが感じていることを教えてください。

澄川:通常の業務を行いながら新しいことを身につけるには、短時間で効果的、かつ頭に残る「体験や実践」とセットでなければ、なかなか難しいものです。ですから、講義とワークショップを交互に実施する形にしたのが良かったと感じています。発表という形でしっかりとアウトプットを繰り返すことで、お互いにとって刺激になりますし、自分にとっての気づきも多くなると思います。最終回なんて、全員にそれぞれ企画を立ててもらいましたからね。最初は「ブランド担当者がこう言っているから」という三人称で語っていたのが、最後は「私はこうしたいので〜」という一人称での話し方に変わっていったのが印象的でした。

岸:そもそも、自分の意見をアウトプットをする人がほとんどいなかったのですが、「編集の学校」が終わってからは、授業の延長みたいな感じでディスカッションして、意見/企画としてアウトプットしている人が増えました。おかげさまで、うちのチーム発の企画も増えてきていますよ。

澄川:それは嬉しいです! 講師冥利に尽きます。

受講者が「編集のがっこう」修了後に作成した企画書の一部。この企画がベースとなって立ち上がったページはこちら:https://store.nanouniverse.jp/feature/holiday2023/

岸:こちら ( https://store.nanouniverse.jp/feature/holiday2023/ )の企画では、売上が122%になったとのことでした。Tipsだけではなく、根本の「思想」の部分からやってくださったので、自走できる組織になってきたなと感じています。ブランド側に対しても、これまではPVとかCVをただ投げつけていたようなコミュニケーションだったのですが、そこに言葉をのせて、コンテンツとしてブランドにフィードバックできるようになったことも大きいと感じていて、コンテンツ制作以外の領域でも本質的に活かせるスキルだと思います。

これからも、どんどんと独自性のあるコンテンツを作っていきたい

ブランドコンテンツの同質化が目立ってきているからこそ、独自性のあるコンテンツが差別化につながる。そのために、組織やメンバーの内なる部分を変えていくことが、急がば回れの精神で非常に大切だと言えます。

--今回の「編集のがっこう」を経て、今後のコンテンツマーケティングにおける施策/方針等についても教えてください。

岸:ファッションECって、どれも基本的には機能的価値をメインに訴求してきたところがあると思います。加えてコロナ禍の影響でデジタル化に拍車がかかり、スタッフコンテンツが定常化されてくるなどして、いろんなブランドが同質化してきていると感じています。

一方で、自社ECを強化していくにあたっては、コンテンツがより重要になっていくのは明白です。ここがオリジナリティを出せる1番のポイントになってくると思うので、どんどんと独自性のあるコンテンツを作っていきたいと考えています。もちろん、そのためには数を量産していくのも大事だと思うので、そこに生成AIを入れたりといったことも順次トライしていきたいと考えています。

澄川:自分たちで企画を作っていくと、少しずつブランドや消費者の「枠」が見えてきます。そうすると、「この枠の中であればもっと面白いことができる」という判断ができるようになります。判断ができれば、トライアルアンドエラーの幅も広がっていき、企画としての面白さがどんどんと進化していきます。こういった内なるところを変えていくのって、実はすごく大事で、そういう部分で引き続きご支援できればと思っています。

岸:ありがとうございます。Pomaloさんにはいつも、他社さんのコンテンツや事例をたくさん紹介していただいています。自分たちだけではどうしても足りない部分が今後も出てくると思うので、引き続きお力添えをお願いできればと思っています。


Credit  執筆:長岡 武司