元雑誌編集長が徹底比較〜ライター vs Chat GPT〜ライターは生き残れるかを問う

Summary

高度なAI技術によって、人間のように自然な会話ができる話題のChatGPT。AIでコンテンツづくりはどう変わるのかーー読み手の共感を生む原稿が書けるか、編集者が狙ったコンセプト通りに文脈を作れるのかーー編集者がAIに挑む? いや違う。AIが編集者に挑んでいるのか? それはさておき、編集やクリエイティブという職業の垣根をどんどん超えてくる「AIのいま」を深掘りした、弊社イベント(2023年4月25日)の自分自身のパート部分をまとめました。

書いたほうが早い⁉️ プロンプトを間違うと果てしない戦いが待っている

今回検証したのは、ある企業サイトの中の取材記事。ChatGPTを使って書いたものと、編集者として30年以上原稿を書いてきたベテラン編集者による原稿(私が書いたのものではありません)とを比較し、

  • GPTのメリット
  • 何が決定的に違うのか

を徹底検証。

今回検証材料としたのは以下の2記事。

1記事:ウォーターベッドという普遍的な機能をもつモノについて。

    専門家取材に基づき、読み手にウォーターベッドのよさを説得する内容。

2記事:盆栽をアートとして世界に提案している盆栽プロデューサーを取材。

    本人取材から、盆栽が世界に認められる経緯と価値をどう高めたかを伝える内容。

この2記事の違いは、

  • すでにモノとしての価値や情報が世の中に出回っているもの
  • そうでない(新しく定義していく段階にある)もの

GPTを通して、どこまで編集者が望む文章が書けるかに挑戦。どちらの取材も音声録音し、それをテキスト化したものを用意しました。

当初行ったのは、GPTに取材音声をテキスト化したものを入れ、要約してもらう方法。簡単に済むだろうとタカをくくっていたところ、これがかなり困難な手法だと発覚したのです。理由は、日本語でGPTにプロンプトで指示するのに、1回につき2000文字の文字制限があったこと。

どういうことか?

つまり、インタビュー取材の文字起こしテキストは、余分な会話や話の派生も含めて、少なく見積もっても20000字程度。それを文脈を損なわないところで切って、2000字以内で要約を細切れに求め続けていくのに骨が折れました。

そのうえで、プロンプト(命令書)として、構成要素、制約条件、出力形式、参考文献などを入れるのは、果てしのない時間との戦いだったこと。かつ、GPTが出してきた文章に、さらに読者に共感をしてもらえるような言葉設定、文脈をどうつけるか、そのプロンプトづくりに、正直、お手上げで、何度も「書いたほうが早い!」とPCに向かって吠え続け、諦めざるを得ませんでした。

すでに世の中に情報がある内容であれば、GPTは秒で文章を作成

その後、弊社のAIを使った文章作成にも携わってきたデータサイエンティストの岩井に相談。すると、私が行っていたことは、ChatGPTに私(澄川)の過去の文章経験をすべて言語化して指示するようなもので、不可能に近いと一刀両断(笑)。そりゃ時間がかかるし、終わりのない戦いをGPTに挑んでいたのだと納得。そこで、ウォーターベッドはすでに情報が大量にあることから、取材内容の要約ではなく、GPTに説明を求め、そこから取材内容で拾ったものを定義していくのが早いのでは? という仮説で設定し直すことに。その指示(プロンプト)順番が以下。

  1. ウォーターベッドについて説明を求め
  2. 睡眠科学に基づき、ウォーターベッドがいかに適しているのかを説明させ
  3. その文章に、取材した専門家の声を箇条書きにして伝え
  4. 構成条件などを設定

すると......なんということでしょう! GPTは秒で文章を組み立て、ある程度、まとまりのある文章が完成したのです。

なんだ、結構簡単じゃないか! そう思ったのも束の間。別の問題が降りかかってきました。

世の中に情報がないものをGPTに書かせる場合は、どうしたらいいのか?

次に挑んだのは、盆栽に関する記事。「ウォーターベッド」同様「盆栽」について定義された文章は、いとも簡単に完成するものの、盆栽をアートとして提案し、注目を集め始めた人物(個人名)の情報は少なく、また、それに取り組んできた日本人に関しての情報はゼロに等しい(GPTは英語主体なので、英語圏でも知られているようなワールドワイドの有名人でなければ情報がない)。実際、その人物名を入れてGPTに説明を求めると、「架空のキャラクターです」と返答される始末。

そこが、世界レベルで認知のあるウォーターベッドとは圧倒的に違う点だったのです。

では、どうしたか?

  1. 盆栽について定義させた後
  2. 盆栽プロデューサーのプロフィールをわかりやすく、本人のヒストリー(生い立ち)を追いながら伝え
  3. 本人の取材に基づく声として、取材で心に残った言葉や見逃せない点を箇条書きにし、
  4. 漏れのないように「」などで本人の言葉として入れ込むよう指示
  5. 文章の構成要素(見出しの本数や段落の数)や制約条件を入れる

というステップでプロンプトを設計し、文章の生成を求めると、合計3回くらいのやりとりで、体裁の整った文章になったのです。

その2つを比較して、ダイジェストでお見せします。それが以下。まずは、ウォーターベッド。

(左)ベテラン編集者による原稿。(右)ChatGPTが生成した原稿

タイトルは、お互い「究極の眠り」という言葉が被っているものの、ChatGPTのほうがより商品推しで、ベテラン編集者の原稿は、商品を通して何が得られるのかという結果のほうを重視している。

さらに圧倒的な違いは、本文の書き出し。両方とも言いたい内容は全く同じであるのに、左は、取材によって得た印象的な言葉から始めている。対して、ChatGPTは、文体自体も堅く、淡々とした文献をなぞっているような印象。そして、文章全体も取材によるエピソードや、深掘りする説明がないため、説得力に乏しい(ChatGPTには、取材で得た内容を箇条書きにし、取材者の言葉として「」をつけて説明補足するようプロンプトには指示したが、ここではそのプロンプトは「安武大輔氏によると」という表現で、まとめられてしまっている)。

続いて、盆栽。

(左)ベテラン編集者の実際の原稿(右)ChatGPTが生成した原稿

タイトルに関しては、ベテラン編集者は「アートとしての盆栽」と表現したのに対して、ChatGPTは「新しい盆栽の世界」とし、どちらも表現は悪くない。

*タイトルは、これから盆栽をどう伝えるかを差し示す入り口なので、どちらも期待をもたせるという意味ではアリ。読んだ後で、どちらのタイトルがよりいいかを編集長としては判断することになる。

*「TRADMAN’S BONSAI」と「小島鉄平」の違いは会社名か個人名かの違いであり、ここでは問題にしない

まず注目してもらいたいのはリード。取材内容だけでなく、盆栽という概念を説明したうえで、小島鉄平氏がやってきたことに結びつけ、より期待値を煽るための導入文にしたベテラン編集者。比べてChatGPTは、小島さんの情報のみに終始している。これは、情報そのものを説明する言葉や概念をたくさん持っているウォーターベッドの記事とは異なり、小島鉄平氏に関して私自身がプロンプトで入れた情報しか持ち得ないため、それを整理しただけに過ぎないからだ。

特筆すべきは、2段落めにつけた見出し。ベテラン編集者とChatGPTは、まったく同じ見出しをつけている。

*「組み合わせた」「融合させた」は同義語なので、同じと判断。

2段落めと最終段も添付。どうやって文章をまとめていくか、その違いを比べてもらいたい。

2段落め、3段落めで触れている内容は、両者とも同じことを触れているが、リーバイスの話をどこに出して、小島氏が手がける盆栽をどう表現し、「見てみたい」「なんなら欲しい」と思わせるかという感情の盛り上げ方が圧倒的に違っている。

結論。ChatGPTと人間の頭脳を組み合わせれば、仕事は5倍できる⁉️

以上、ChatGPTとの闘いとその考察をまとめたい。

  • 見出しなど、ライターとかぶるほぼ同じ見出しがあった
  • 文章の出だしや締めくくりが、GPT平易
  • 事実を整理し、わかりやすい文章立て(構成)にするのはGPTでもほぼOK
  • 取材相手のエピソードなどは、かなり詳細に設定しないと、完全に削除されてしまう(事実関係を拾うのがGPTは得意)
  • ライターが書く文章は、出だしで興味を惹きつける上手さがあり、わかりやすいエピソードを取りこぼさず、興味を引く構成になっている
  • 文章の終わり方(まとめ方)も、ライターは言葉がドラマティック。GPTは平凡。
  • わかりきっているが、過去の経験に基づくデータなどと絡めて書けない(いまそこにある事実しか生成できない)

GPTの文章は決してダメではないが、新人が上げてくるような原稿に近い。主語+述語+動詞などが多く、倒置法などという言葉のテクニックがまだあまりなく、ひと段落の中にリズムがないように感じすうえ、心が動く言葉が少ないような...。

しかしながら、要約は圧倒的に上手いので、要約させて、構成をある程度考えさせたうえで、人間が言葉をプラスし、文章を研ぎ澄ませていくという方法で書いていくのが、2023年4月時点での正解といえそうだ。

例えば、取材や書きたい内容の要約をGPTに担わせ、それを元に全体の流れを上手に再構築したり、書き出しや結論部分などの言葉の使い方を考える時間に充てられれば、今までかかっていた原稿書きの時間がもっと短縮できそうだ。

1015分で文章の全体像をGPTに設計させ、それをベースに、こねくり回して、いい文章に仕上げるなら、今まで5時間かかっていた原稿書きが、1時間に短縮させられるのではないか。

となるとGPTを活用すれば、いまの5倍稼げるようになるだろう。

 

Contact