Work

Interview

プレミアムサイトにおけるコンテンツ施策を通し、商品と出会う「楽しさ」を創出する

大丸松坂屋百貨店
プレミアムサイトにおけるコンテンツ施策を通し、商品と出会う「楽しさ」を創出する

Client:株式会社大丸松坂屋百貨店

ともに江戸時代から続く老舗百貨店「大丸」と「松坂屋」が2010年に経営統合して発足。「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する。」というグループビジョンのもと、「モノ売り」の枠を超えたサービスを展開。

Overview

https://www.connaissligne.com/

これまで大丸松坂屋百貨店は、プレミアム会員制サイト「connaissligne(コネスリーニュ)」を通して、富裕層を中心とする外商顧客とのコミュニケーションを図ってきました。Pomaloは、コンテンツ施策を通して希少性のある国産酒の新たな価値を創出し、顧客コミュニケーションの機会拡大を実現しています。

Point

  • 高級酒類市場においては洋酒にスポットが当たりやすい中、希少性の高い国産酒の魅力を「connaissligne」内で伝えることにより、国産酒の価値向上を図るとともに生産者側との関係構築に取り組む。
  • アンケートやアクセス解析によってデータを集め、「connaissligne」ならではの切り口で顧客の関心を引くコンテンツを作り、付加価値を創出。
  • コンテンツをプレミアムサイト(デジタル)と外商営業トーク(リアル)の両面で届けることで、新たな商品との楽しい出会いやもの作りの背景にあるコト消費を促進。

Project Members

  • 稲垣貴之様[Takayuki Inagaki](大丸松坂屋百貨店営業本部MDコンテンツ開発第2部和洋酒担当)
  • 田尻翔悟[Shogo Tajiri]Pomaloビジネスディベロップメントグループマネージャー)

Story

日常的な顧客コミュニケーションを引き出すアプローチとしてのコンテンツ施策

connaissligne」における外商顧客へのアプローチ戦略を再考していた大丸松坂屋百貨店は、国産酒に着目し、各生産者との地道な折衝を実行。Pomaloはお酒やフードに詳しい専門編集者をアサインし、生産者の想いを丁寧にストーリー化、商品と出会う楽しさを生み出す支援を行っています。

――プロジェクト発足当時、抱えていた課題はどんなものでしたか。

稲垣:富裕層を中心とする外商のお客様限定のオンラインサイト「connaissligne」はこれまで、特選ブランドやラグジュアリーな時計や美術品など、提案する商品カテゴリーが限られていました。特選品は用意できるタイミングが不定期となるため、必然的にお客様とのコミュニケーションの機会も限られてきます。

より日常的にコミュニケーションがとれるように戦略を描き直したときに、「お酒」というアイテムが適しているのではないか。加えてお酒は、「文化的価値」「ローカリティ」などの文脈にもマッチするため、弊社のお客様にも共感いただけるのではないか。このような考えのもと、プロジェクトがスタートしました。

今回は”メイドインジャパン”、つまり国産酒をテーマとして決め、Pomaloさんにご協力いただくことになりました。

――Pomaloを選ばれた理由をお聞かせください。

稲垣:何社か検討させていただいた中で、Pomaloのクリエイティブディレクターさんからいただいた「ストーリーを通して訴求することで、商品の価値をよりお客様に届ける」というアイデアが非常に良かったです。

これまで商品という「モノ」の価値を深掘りしたことはありましたが、生産者の想いや、お酒が生まれた歴史などの深掘りはしたことはありませんでした。

connaissligne」内でアンケートを取った際に「専門家の声が聞きたい」「もっと商品のことを知りたい」といった結果が出ていたので、ストーリー起点でのコンテンツを作ることでお客様満足度が上がるのではないかと期待が持てたのが決め手です。

――実際にコンテンツ掲載を始められるまでに、どのように進めていったのでしょうか。

稲垣:まず弊社はIMADEYAさんという酒屋さんにご協力いただき、日本全国4050の蔵元やワイナリーなど、生産者の方々を巡り、本プロジェクトの説明をしました。その中で本プロジェクトに賛同いただいた方たちに対し、Pomaloさんをはじめとする制作陣が取材を行っていきました。スタートから1年ほどは生産者巡りに時間を費やし、20218月に満を持して「connaissligne」に記事を上げ始めた形です。

田尻:蔵元さんやワイナリーさんは既存のつながりがないとそもそも接点を持てないことが多いので、その接点作りや交渉など、地道なところを大丸松坂屋さんの方で動いていただいたことはプロジェクトを進める上で非常に大きなポイントでした。

本プロジェクトの狙いは「国産酒のプレミアムな価値を世の中に浸透させる」こと、いわば「新しいマーケット作り」です。初期設計として「伝統と革新」「人」「技巧・職人芸」「希少性」という4つの切り口を立て、それをもとに国産酒のラグジュアリーさを感じさせる見せ方にすることを意識しました。

これまでスポットが当たらなかった商品を深掘りすることで新たな価値を届ける

――今回のプロジェクトについてお話しした際、生産者さん側の反応はいかがでしたか。

稲垣:基本的に皆さん、一般流通の方は今までも力を入れられてきましたが、今回のようなクローズドな取り組み、かつ富裕層の方たちにアプローチできるところに新しさを感じ、面白いと思っていただけた方が多かったと思います。

――制作時、どのような部分に重点を置いたのでしょうか。

田尻:いかに蔵元さんたちのリアルな声や想い、熱量を伝えられるコンテンツにするか、という部分ですね。「デジタルで情熱は伝わるのかに挑み続ける」はPomaloの企業ミッションでもあるので、強く意識しました。

どうしても「お酒」というジャンルでは、洋酒にスポットが当たりやすい傾向があります。ワインでいえば「ボジョレー解禁」はよくニュースになりますが、国産酒ではなかなかそうはいきません。今回は国産酒の生産者の想いや熱量をしっかりと伝わるようにすることはもちろん、国産酒の付加価値を高めるためのブランディングをどう実現させるかに対して試行錯誤しました。

――コンテンツの掲載先が一般的な媒体と異なり、富裕層を中心とする媒体となりますが、注意した点はありますか。

稲垣:富裕層の方々はモノの価値を知っている方が多いので、適切に価値ある情報をインプットしていただけるようコンテンツを制作しました。ただ単に「高いから良い」「希少性があるから良い」ではなく、作り手のこだわりを伝えることで、より高い商品価値を感じていただけるのではないかと考えています。

また、お客様にアンケートを取ることでコンテンツ制作の意図が届いたかどうかを確認しており、発信が一方通行にならないようにしています。さらに、アクセス解析(=申込数・閲覧数のカウント)を行い、どういった切り口のコンテンツに興味が高いか、どんな商品に興味が持たれているかを確認し、次のコンテンツ作りに生かしています。

田尻:蔵元さんといえば「伝統や文化」をイメージする人が多いと思いますが、今は新しいものを生み出す取り組みをされている蔵元さんもたくさんいらっしゃいます。伝統や文化を踏襲しつつも、「先を見据えた今の取り組み」を伝えれば、それが新しい価値となり、富裕層の方たちにとっても知らない世界を届けられるのではないかと思っています。

ターゲットに合わせたチームを組成し、精度の高い編集を行う

――すでに1年半以上、継続的にコンテンツをアップされていますが、お客様からの反響はいかがでしょうか。

稲垣:月に3本、木曜日に記事とともに販売ページを公開し、該当商品の抽選販売をさせていただく形で運用しています。基本的に公開は木曜日から日曜日までの4日間のみなので、リピートのお客様には日ごろからサイトをチェックしていただける状態になっています。

お客様からはアンケートを通して、「お酒ができるまでの想いやコンセプトなど、味とは違う魅力が面白い」「お酒は飲むけど詳しくないので、こういう企画は助かる」といった声が届いています。

また、外商の係員がお客様と対面でお話しする際のコミュニケーションツールとしても記事を活用しています。 Webとリアルの両方でコンテンツをお届けすることで、お客様と新たな商品との出会いだけでなく、生産者さんの想いに触れていただく「コト消費」の機会を生み出すことができています。

田尻:大丸松坂屋さんが扱う商品ということで、自信を持って紹介できるものをご用意いただいているという安心感は大きいですね。

――今回の取り組みを通じて、Pomaloの強みはどのように生かされましたか。

稲垣:ストーリー起点でコンテンツを制作するという知見を豊富にお持ちなので、いろいろなアドバイスをいただきつつ、どういうチームを組むのかについても全部お任せできたので非常にありがたかったです。

田尻:大丸松坂屋さんにはこちらの提案や意見に対して柔軟にご対応いただけています。本当に発注者と受注側ではなく「1つのチーム」として、一緒に議論していけているところがありがたいですし、お客様からの好評をいただけている大きな要因だと感じています。

今回ターゲットとなる富裕層の方々は母数が少なく、簡単にご意見が聞ける環境ではありません。その中でどこにポイントを置くべきなのか見極めるためにも専門編集者をアサインし、チームを組成しました。

Pomalo自体、様々なバックボーンを持った人間が集まっている会社ですし、このような外部ネットワークを含めた編集ノウハウを強みとしています。そこが非常に生かされた事例だと思っています。

「モノ軸」ではなく「体験軸」の企画もともに考え、実行する

――今後取り組んでいきたいことは何でしょうか。

稲垣:この1年半で、ストーリーによる深掘りはできてきました。今後は「モノ軸」ではなく、「体験軸」に踏み込んでコンテンツ化していきたいと思っています。

お酒をご購入いただいたお客様からは「どんな料理と合わせるのが良いのか」「お酒の楽しみ方をもっと知りたい」といったご意見が寄せられています。そこで例えば、お酒と料理を組み合わせたお客様参加型のイベントなどもどんどん企画していきたいです。

ゆくゆくは料理にとどまらず、音楽やアートと一緒に楽しむなど、カテゴリーをミックスさせても良いでしょう。お酒のプロやモノ作りのプロにしかできないことがあるように、私たち百貨店はあらゆるカテゴリーが扱える点に強みがあります。

生産者の方たちにいろいろなコンテンツ提案をしていくことが私たちの介在価値だと思うので、様々な文脈での訴求方法を、Pomaloさんと一緒に考えていきたいと思います。

田尻:グラス1つとっても、例えば「日本酒=おちょこ」というイメージがありますが、ワイングラスやバカラグラスで楽しむ方法もあるかもしれませんよね。お酒の楽しみ方の固定概念を壊していくのも体験価値を生み出す方法の1つです。引き続き、大丸松坂屋さんと連携を強めながら、魅力的なコンテンツを作っていきたいです。

Credit

  • 執筆:落合真彩

  • 撮影:杉江拓哉(人物) 河内彩