Work

Interview

コミュニケーション支援

創業300年企業の次なる挑戦は「音声」。
新たなコミュニケーションを模索する
「中川政七商店ラヂオ」

株式会社中川政七商店様
創業300年企業の次なる挑戦は「音声」。新たなコミュニケーションを模索する「中川政七商店ラヂオ」

Client Company

1716 年(享保元年)に創業し、2016年で300周年を迎えた奈良の老舗企業・株式会社中川政七商店では、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、工芸業界初のSPA(製造小売り)業態を確立。全国に約60の直営店を展開するほか、合同展示会・業界特化型の経営コンサルティング・まちづくりなど多岐に渡り拡大しています。

Overview

https://story.nakagawa-masashichi.jp/212056

2022年1月にリリースされたインターネットラジオ番組「中川政七商店ラヂオ 暮らしの手ざわり。」は、中川政七商店がつくり出す暮らしの道具を通して、その使い手たちの暮らしぶりやライフスタンスに触れる音声番組です。公私ともに仲の良いゲストふたりが交わす道具に対する愛着の物語を、ナビゲーターのクリス智子さんと共に”のぞき聴き”していきます。

(配信媒体)Spotify、Apple Podcast、Google Podcasts、Amazon Music、SoundCloud、Castbox、YouTube、Voicy

Point

  • 経営戦略、全体のコミュニケーション戦略を踏まえた上で、共同プロデュースとしてコンテンツやマーケティング施策へ落とし込む
  • 「音声コミュニケーション」という新たな領域で、伴走しながらコンセプト立案・企画・運用まで一気通貫して担当

Project Members

  • 千石 あや[Aya Sengoku](株式会社中川政七商店 代表取締役社長)
  • 高橋 崇之[Shuji Takahashi](Pomalo株式会社 代表取締役CEO)

※今回は両社トップの対談としてお話を伺いました

Story

どこを切り取っても「中川政七商店」であるべき

「一年違ったら、やっていなかったかもしれない」という千石社長の言葉。ブランドのコミュニケーション戦略に課題を感じていた中での「音声コミュニケーション」施策は、まさに奇跡的にタイミングが合致したPomaloからの提案でした。

--今回のプロジェクトはPomaloからの提案から始まったということですが、当時、貴社が抱えていた課題について教えてください。

千石:私が社長になった2018年当時、中川政七商店はとても”プロダクトアウト”な会社でした。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、そこに込められた思いや、そこから作り出された商品の魅力というものを、主に全国の直営店を通してお客様へとお伝えしていたのです。

「我々はこうあるべきだ」という部分については非常に深く考え抜いてきたブランドなのですが、一方でそれが世の中・お客様にとってどのように良いのか。この部分については、正直に申し上げてまだ確立したものができていませんでした。ここからさらにブランドを成長させるためには、この「お客様や社会」に向けた言葉をもっと組み立てていかねばならないと考えていたタイミングでした。

--そんななかで、Pomaloから音声コミュニケーション施策としてラジオコンテンツの共創提案があったわけですが、それに対してはどのように感じましたか?

千石:本当にタイミングだなと。実は先ほどの課題感から、まずは社内的に、弊社とお客様とのタッチポイントを全部整理していたところだったのです。どこから顧客コミュニケーションを統一していくかを整理する中で「最近音声が面白いよね」と思っていたところでのご連絡でした。

高橋:もともとPomaloでは、2018年から音声領域への取り組みを開始しました。アプローチとしては2つ。自分たちで一から進める内製化とラジオ制作会社との共創です。いろいろ試した結果として、今回のプロジェクトにおいてはそれぞれの良さを抽出したハイブリッド型での作り方が”体温を伝えるメディア”として最も機能する、と考えました。つまり、ラジオ番組としての質については既存の制作会社の力が必要だし、コンセプトや方針策定や音声ミュニケーションとしての施策立案については自分たちのこれまでのノウハウが武器になると。

中川政七商店さんはビジョンがしっかりされておられ、音声コミュニケーションのような新しい施策で、何か面白いことをご一緒できないかと思ってご連絡した次第です。

千石:一年違ったらやっていなかったかもしれません。Pomaloさんから言われた「どこを切り取っても中川政七商店であるべきだ」という表現は、まさにそうだなと思いました。

高橋:ここ数年で「DX」がトレンドになっていますが、ツールやプラットフォームとしての統合が進んだとしても、コンテンツだけが分断されているケースが多いなと感じています。顧客とのコミュニケーション施策を理解した上でコンテンツをどう落とし込むかが、これからどんどんと重要になっていくでしょうね。

ブランドは「伝えるべきことを正しく伝える」のひたすら積み重ね

普段は外部に見せないような資料を共有しながら、まずは中川政七商店そのものについての理解を深めていったプロジェクトチーム。その上で出てきたコンセプトは「他者が語る中川政七商店」でした。

--まずは何からプロジェクトをスタートされましたか?

千石:私たちのことをなるべく分かっていただきたいので、双方間での認識のギャップを埋めるところからスタートしました。それこそ、基本的には外部にお見せしない中期経営計画をお渡ししてご説明したり、実際に店舗に行っていただくなどして、お話しをするところに時間をかけました。

--音声コミュニケーションに対してはどのような役割や効果を期待されたのでしょうか?

千石:一言でお伝えすると「なんかいい感じだな」というのが広がっていけばいいなと。これまで中川政七商店が取り込めていなかったようなライフスタイル層へとリーチして、ブランドを理解し、ファンになっていただけたらと考えています。

冒頭にもお伝えしたとおり、中川政七商店では自分たち発の情報が多い一方で、お客様がブランドやプロダクトについて発信するという事例は少ないのが現状です。だからこそ「他者が語る中川政七商店」という切り口をコンセプトにして、工芸のある暮らしかた/生きかたに共感する人口の増加につながればいいなと考えています。

商品部から販売部への商品説明会。 今期展開商品について、Pomaloチームも詳しく教えていただきました

--初めてのラジオコンテンツ企画ということで、どのようなプロジェクト体制で進めているのでしょうか?

千石:私を含め、ブランドマネジメント室から広報とメディア担当が企画から運用までを見ています。

高橋:Pomaloからはビジネスへの理解をもってコンテンツの戦略設計とクオリティを担保する「クリエイティブ・ディレクター」、実際にコンテンツを作る「エディトリアルプランナー」、配信後の分析を担当する「分析チーム」という役割分担でチームを構成しています。一般的なWEBコンテンツと違い、音声コンテンツはすぐにクリックやコンバージョンにつながる類のものでもないので、分析については中長期的な視点で実証実験的に進めています。

千石:私としても、短期的に結論を出すものではないと思っています。ブランドというものは「伝えるべきことを正しく伝える」のひたすら積み重ねです。積み重なっていき、徐々にお客さんの頭の中にもやもやとしたイメージができていく。そのための取り組みのひとつが「中川政七商店ラヂオ 暮らしの手ざわり。」だと捉えています。

ラヂオの「読後感」の設計

LPの立ち上げやSNSでのキャンペーン、店頭での試験的BGM配信など、横断的なコンテンツ戦略を実証的に進めていった中で、特に苦労したポイント。それは「手触り感」の醸成でした。

スタジオの様子。公私共に仲の良いゲストふたりがマイクを挟んで向き合いおしゃべりするスタイルで収録

--音声コンテンツを作る上で、苦労されているポイントを教えてください。

千石:読後感といいますか、聞いてもらった後にどんな気持ちになってもらうのがいいか、という点をいつも議論している気がします。少なくとも、何かを買ってもらおうという感じで作ると、途端に趣旨と違うことになるので、その距離感が難しいなと感じています。

高橋:ブランドコミュニケーションのコンテンツは当然ですがブランド寄りになり、一方でコンシューマー目線を意識すぎると俗っぽくなりがちです。このバランスがとても大事で今回は「手触り感っていいよね」という声がプロジェクトメンバー内でも出ておりコンセプトがうまく落とし込めたと思っています。

中川政七商店ラヂオでは、ゲストのおふたりが道具への愛着について語るわけですが、じゃあラジオブースがあるようなイメージかというと、そうでもないわけです。先ほどの「どこを切り取っても中川政七商店」になるためには、どうあるべきなのか。このせめぎ合いが、本当に難しいところだなと感じます。少なくとも聞いた後の読後感については、制作サイドでも改めて聞いてどう思ったかをまとめて、次回以降の制作に活かすようにしています。

第一回目のゲストとなった、モデルのはなさん(写真左)と料理家の栗原友さん(写真右)。「色とりどりのふきんは、生活感あるキッチンも可愛く見せてくれるよね」など、まるでカフェでの会話を “のぞき聴き” しているような番組スタイルとなっています

千石:あとはゲストのキャスティングですよね。

高橋:間違いないですね(笑)

--ゲストのキャスティングでは、どんなことが重要なのでしょうか?

千石:「中川政七商店ラヂオ」に出るのはどのような方なのか。どんな方ならば視聴者にとって違和感がなく、また弊社としてもブランドの奥行きを広げられるのか。さらには、こだわりをお話しいただけそうな方でもある必要があります。こういう観点で人を探していくと、なかなかスムーズには見つからないものです。

高橋:キャスティングについても、企業発のラジオコンテンツに出演したことのある著名人がそもそも少なく、ハードルが高いことを感じました。

千石:私たちのことを知らない人にリーチさせたいからこそ、普段の中川政七商店のクリエイティブでは出ないような方にあえて出ていただく。親和性と意外性の両面で続けていくことがポイントだなと感じています。

「半分中の人で、半分は確実に外の人。このバランス感が大切」

2020年1月7日の初回放送から10日で、月次目標を上回る再生回数を達成しました。幸先の良いスタートとなった中川政七商店ラヂオは、この先どのようなビジョンを描いているのでしょうか。

--初回の走り出しは好調だったとのことですが、例えば店舗などの既存チャネルでの変化は何かありましたか?

千石:店舗の方では、ラジオを聞いて実際に花ふきんを購入しにいらっしゃった方がいます。更麻も試してみたいとおっしゃっていたとのことで、直接販促的なコンテンツではありませんが、じわじわと効果を感じています。あとはインスタグラムなど、SNS上での好評価なコメントや反応も数多く届いていますね。

--これからのラジオコンテンツについては、どのようにお考えでしょうか?

千石:今は使い手の方が使った感想を話すという形をメインにしていますが、ここに現場の話を入れるのも面白いなと思っています。職人の方も、全然異世界の人をイメージされる方は多いのですが、今の時代を一緒に生きる一人です。そこに全然違うタイプの方をあててお話しいただくのも、面白いだろうなと。

高橋:同じ手法は必ず飽きられますからね。シズル感の醸成は常に手探りだからこそ、SAME BOATのマインドでチャレンジしていきたいと思います。

千石:Pomaloさんは、半分中の人で、半分は確実に外の人。このバランス感の中で一緒に作ってもらうから意味があると実感しています。「伝わらないな」と思ったことは一度もなく、音声コミュニケーションという新しい領域をご一緒できて良かったなと思っています。引き続き、良質なコンテンツ発信に向けてご一緒できたらと思います。

Credit

  • 執筆:長岡武司
  • 撮影:太田 善章